青春の火葬 / あじさいめんこ
「先生、今日で最後にしましょう」
返事はない。先生は黙ってゆっくり私のリボンを解いていく。
今日で先生に制服を脱がされるのが最後だと思うと感慨深い。三年間の高校生活が終わることよりも、カーテンを閉め切った準備室で先生とセックスできなくなることの方が寂しいなんてどうかしている。どこで間違えたんだろうな、青春のすすめ方。今日もどこか冷めた眼差しで私の体に触れる先生の手は温かい。心の冷たい人ほど体温が高いって聞いたことがあるな、と私の太腿にぬるりと先生が赤い舌を這わせているのを眺めていた。自分がされていることを天の上から覗いているような感覚。最初はこんなこともなかったのに、いつからか俯瞰して私と先生がシているのが視えるようになった。
気持ち悪いな、教師が生徒のスカートの中に顔を突っ込んでいるさまは滑稽だった。気持ち悪いのに、私は先生との関係を終わらせることができなかった、し、これまで終わらせようとしたことがなかった。先生は見た目が特別いいわけじゃない、むしろ野暮ったくて女子生徒からの人気はほとんどない。
ただ、声がどうにも好きだった。その声で、私の名前を呼んで欲しかった。最初はそれくらいの気持ちだった。それがどうしてこうなっちゃったかなあ。今更後悔してももう遅い。みんなが先生、と呼んでいるこの人が、放課後にはわたしのことを下の名前で呼んで、ぐちゃぐちゃになっていることを私しか知らないという優越感に浸ってしまった自分が悪い。
「今日は、最後だから、少しカーテンを開けてもいいですか、」
自分でもよくわからないお願いをしているなあと思う。誰かに見られてしまわないか、というスリルを楽しむような性癖は持ち合わせていないはずだったけど、少し高揚しているのかもしれない。なにせ今日が最後だから。思い出づくり(笑)みたいな。
先生は吐息で返事をする。ああもうどうでもいいんだなあ、私も、先生も。今日でおしまいだもん。「終わる」ことの目に見えない力強さを知る。
カーテンを握り、ひらりと捲る。放課後の校庭に見える桜の蕾のいくつかが咲いていた。今週はずっと天気がいいから、卒業式はきっと桜が満開だって誰かが言ってたっけ。卒業式の日に先生とツーショットなんて、きっと撮らないだろうな。それどころか、明日からあと数日しかない高校生活の中で話すことももうないだろう。そんなもんだ、私と先生の関係なんて。
「先生、さようなら」
「少し早いけど、卒業おめでとう」
「卒業式は金曜日ですよ」
「うん。それでも」
ほらね、結局最後は名前も呼んでくれない。これが私の性春かあ、なんて一人で笑いながら乱れた服装を整えて準備室を出る。私と先生の秘密を全部知っているこの制服は、卒業式が終わってみんなと最後の思い出を残した後に、まとめてゴミ袋に突っ込んで燃やしてしまおう。不純なものは全部塵になって、誰にも知られることのないまま、ひとりで終わらせようと思う。
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