嘘の味 / まよい


 近所のコンビニエンスストアが潰れた。
 深夜のコンビニに年確なんてない。いつも無愛想な女の店員から缶チューハイを三本買っておれは店を出た。まるで夏みたいだね。美優紀の声が鼓膜の近くで鳴る。だからなんだっていうんだ。美優紀はもうここにはいない。だからなんだっていうんだ。三パーセント、三パーセント、五パーセント。アルコールと同じだけの割合の嘘でおれたちは成り立つことができていた。酔ったふり、好きなふり、泣いたふり、嫌いなふり。特別だなんて、全員に言っているのに。知らないふり。
「潰れるんすね」レジ前の貼り紙を見て、意図せずおれの口から言葉が漏れた。
「え?」
「この店」
「ああ。店長の体調が悪くて」今まで聞いた中で一番長いセンテンスを気だるげに喋った。
「レシート」
「要らないです」
「……ざした」もはや原形を留めてはいない声を背に受けて自動ドアを抜ける。
 ガードレールに半分だけ体重を預けてアルミ缶を傾けた。甘味に溶けた嘘の味。美優紀の笑ったふりが揺れる世界の合間に浮かぶ。九パーセント。世界が揺れているのか俺の脳味噌が揺れているのかわからなくなるからアルミ缶を揺らす。勢い余って溢れたチューハイが親指を伝って手首を濡らす。まるで夏みたいだ。どうせ嘘をつくなら、最後の一口まで騙してくれよ。

めらたん

日本大学芸術学部、未公認サークルの「めらたん」です。エモーショナルな短文を書いています。

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